2005-06-13

松浦本2冊読了  [by miyachi]

松浦さんの最新刊2冊を読了したので簡単に感想など。

1) 恐るべき旅路——火星探査機「のぞみ」のたどった12年

分厚い内容でじっくりと読み応えのある1冊です。のぞみことPLANET-Bを、日本で最初の惑星探査機としてのそもそもの生まれからの紆余曲折や色々な制限からの奮闘が事細かく説明されていて、ISASを理解する事にも役立ちます。

技術者として興味深いのはプロジェクト管理方式で、NASAをお手本としたNASDA方式と、独自のISAS方式でしょうか。そう、これは言い方を替えると、システム工学的アプローチと職人気質的アプローチの違いにもなるのでは無いかと私は考えます。システム工学的アプローチはプロジェクトが巨大になればなる程有効なアプローチですが、予算も人月もかかります。それに比較して個々人の資質に依存する職人気質的アプローチを使えば、小さなプロジェクトであればある程無駄が無くなり有効なアプローチとなります。職人気質的アプローチを信奉する私としてはISASには複雑な親近感を覚えたりしました(笑)

しかしながらPLANET-BではこのISAS方式で運用できる限界近い大きなプロジェクトであったと書かれています。人数的にどの程度が限界なのか個人的には興味があったりしますね。いずれにせよ他の面でも「限界近い」事はトラブルの1つの要因ではあったようです。何かを犠牲にしてでも安全性の確保をする事はやはり大事ですね。

他にも「技術は人につく」「システム・エンジニアの仕事」「目は高く手は低く」等の章は頷きつつ、技術屋としてとても共感の持てる内容が満載されています。技術屋を目指しているなら一読の価値はあります。その意味でも良書です。

特に「技術は人につく」は私の信念でもあります。うちの会社は技術を売る会社な訳ですが、これはすなわち技術者のノウハウを売る会社だと言い換えても良いでしょう。売るべきは技術では無く「人」なのです。

閑話休題。PLANET-Bに話を戻しましょう。この本のハイライトは実は技術的な部分には無いと考えています。では何か。それは「のぞみ」に託された「二十七万人分の想い」でしょう。のぞみでは「あなたの名前を火星に」キャンペーンが行われており、縮小コピーされた二十七万人分の名前が搭載されていたのです。本書のちょうど中盤に応募はがきのコメント欄に書かれたメッセージがまとめられています。正直言って私はここで目頭が熱くなりました。PLANET-Bはただの機械です。しかしそれが「のぞみ」と命名され二十七万人の名前と共に宇宙を飛翔している時には、ただの機械では無く生きた想いが詰められた何か別の物になっているのでは無いかと思えてきました。

これは今後の宇宙開発にとってとても大切な事では無いかと読後思えてきました。宇宙開発の現場にいる方や我々のような一部マニアはいつも「どうすれば一般の方に宇宙開発に興味を持って貰えるのか?」と悩み苦しんでいます。しかしこれを見ると「誰でも星の世界に夢を持ち興味を持っている」事が判ります。後はそれを具体的で身近にする「何か」を提案できれば宇宙開発への理解は進むのでは無いでしょうか。もっともこれはビジネスでは無く「宇宙科学」を探求しているISASだから出来た事かもしれませんが。

いずれにせよ本書に詳しく書かれているように、PLANET-Bは「のぞみ」と名前を変え、二十七万人の想いを乗せて宇宙を駆け抜けました。結果としては火星への到着は出来ませんでしたが、そこに込められた想いや得られたノウハウと言う、金額に出来ないものが残ったのでは無いでしょうか。それは引き継がれて行きます。今ははやぶさことMUSES-Cが、のぞみのノウハウを生かしまた新たに「星の王子様キャンペーン」による八十八万人もの名前と共に宇宙を飛んでいます。その中にはうちの家族の名前も入っています。私も「はやぶさ」の航海の無事を祈っています。

2) スペースシャトルの落日——失われた24年間の真実

さてこちらは一転して辛口の本です(笑) いや松浦さんらしく正面から問題の本質を抉り出しており、ここまで来ると気持ちが良いです。とは言え辛口のコメントの先には「これからの事」に関する考察をすすめているところが、他のNASA賛美自称アナリスト氏(誰とは言わんが中冨信夫氏…言ってるし(^^;)とは違うところでしょう。きちんとした考えの道標として本書は役立てるべきでしょう。なおこの本と一緒に読むべき記事がある。日経BPの松浦さんの「問題山積のJAXA宇宙開発長期ビジョン」に関する以下の4本だ。

 (1)選択も集中が生かされていない総花的内容
 (2)有人宇宙分野で継続してしまった戦略なき対米追従
 (3)再利用とスペースプレーンという先入観から抜けきれず
 (番外編):研究だけだった旧NALをいかにしてJAXAへ統合するか

ここでも本書で書かれていた結果考えるべきテーマである「日本のこれからの宇宙開発方針」に関する参考になる内容が書かれている。しかしこれらを考えれば考える程、官主導の現在の方針決定プロセスには悲観的になってしまいます。明快なビジョンを持ったリーダーが不在である、または存在が許されないような日本の現状は何も宇宙開発に限らず、政治を含めて日本の問題点であろう。もちろん独裁的にならず独走も許さないと言う面で見れば良い面であるとも言えるのかもしれないが…

見方を技術的な視点に変えてみましょう。ってここまでスペースシャトルとは直接的には関係無い事ばかり書いてますね(笑) 結局はスペースシャトルの失敗は根本的なコンセプトの問題。つまり再利用への拘りの悪影響面が指摘されています。これは何も宇宙開発に限った話ではありません。ソフトウェアでも最初のコンセプトは大事です。そこが正しいのか間違っているかがその後で長く使われるか使われないかの境目になっているとも言えるでしょう。悪い例としてスペースシャトルを見るのも技術屋としては意味がある事でしょう。失敗からは何かを学ばないと丸損になってしまいます。技術屋は失敗の責任を追及するのでは無く、純粋に何が悪かったかを認識する事こそが大事なのでは無いかと思います。と言うところで時間が無いので今日はここまで。

2005-06-13 13:08:54 - miyachi - [宇宙開発] -

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