2005-07-29

義務を果たす  [by miyachi]

この数日の報道(当面シャトルの打上げ中止等)を見ていると、松浦さんの「スペースシャトルの落日――失われた24年間の真実」に書かれている通り、やはりシャトルは失敗だったと思わざるを得ない状況になっている。個人的な意見ですが「耐熱タイルの仕組みに問題がある」と思える。

耐熱タイルは「シャトルの再利用の為」に採用された技術だ。スペースシャトル以外の使い捨て型のカプセルでは耐熱タイルでは無く、アブレーターと呼ばれる材質を使ってそれが溶ける事で熱に耐えている方式を使っている。この方式の欠点は再利用が困難である事だが安全性は高い。また使い捨て型のカプセルの底面部は通常は接続されている機械モジュールで保護されているが、シャトルでは燃料タンク側に底面部を向けており打上げ時の振動や細かな物体の衝突で破損してしまう。耐熱タイルは非常に軽く爪で引っかいただけでも傷が付いてしまうような物(1回だけ実物を触った事がある)だ。これはやはり脆弱な構造と言わざるを得ないのでは無いか。

などと言う事は「スペースシャトルの落日」を読めばいくらでも書いてあるので興味のある方はそちらをお読み下さい。ここで問題としたいのは、結局次回打ち上げも凍結されてしまい2010年のシャトル引退までに果たしてこの後何回の打ち上げが行われるかが不明な状況になってしまった点である。あと20回程度はシャトルを使わないとISS(国際宇宙ステーション)は当初の目標であったところまで完成しない。今回のシャトル打ち上げ時点で既に後15回程度と言われていたので、そもそも少なかったのだがここに来て更にその回数が減ってしまう可能性が出てきた。このままではISSの完成は難しいように思える。

ISSの歴史をおさらいしてみよう。

 1)1984年
  米国レーガン大統領が1992年までに国際協力の宇宙ステーション建造を発表。
  ESA(主に西ドイツ)・カナダ・日本が参加を表明。

 *)1986年:スペーシャトル「チャレンジャー」事故。

 2)1988年
  「宇宙基地協力協定」に調印され宇宙ステーション建造は国間の約束事となる。

 3)1993年
  米国クリントン大統領の指示で規模縮小されたが新たにロシアが参加。

 *)1998年:「ザーリャ」のプロトンによる打ち上げ。ISS建造開始。
 *)1998年:「ユニティ」のシャトルによる打ち上げ。
 *)2000年:「ズヴェズダ」のプロトンによる打ち上げ。
 *)2001年:「デスティニー」のシャトルによる打ち上げ。

 *)2003年:スペースシャトル「コロンビア」事故。ISS建造停滞。

 4)2004年
  米国ブッシュ大統領が新宇宙政策を発表。
  2010年のISS完成とスペースシャトル引退が決定。
  ISSに関しては「最低限の義務を果たす」となっている。

結局のところ、レーガンがぶち上げ・クリントンが縮小し・ブッシュが引導を渡した…と言う事だ。これ程見事な「梯子外し」を私は見た事が無い(笑) いや笑ってはいけない日本はISS計画の為に多大な出費をしているのだ。シャトルのトラブルがこのまま続くと「最低限の義務の履行」すら怪しくなってくるのだ。それにしてもこうやって振り返ると米国は大統領次第の国だなとつくづく分かる。共同開発をしている日本・カナダ・ESAの立場とか意思とかは完璧に無視されている。

それにしてもシャトルの打上げが出来なくなった場合に影響を日本のマスコミはきちんと検証すべきでは無いのか?無理だろうなぁ…だから非力ながらここでブログに書く。無論今のシャトルが使えなくなっても貨物機としてのシャトルCや他の手段で「最低限の義務の履行」はされるのかもしれない。でもそれってどれだけ意味がある事なのか…もう一度考えてみる必要はあるように思う。

2005-07-29 18:17:00 - miyachi - [宇宙開発] -

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